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白点三千個[4]
白点病“治療”に関する考察

(2005.12.31)

 

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飼育魚に白点病が発症した場合の“治療”について、その要点と、治療法について考察します。
具体的で細かな治療ノウハウには言及しませんので、必要な方は別途、お調べ下さい。

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白点病“治療”の理解/その要点
  白点虫の生活/増殖サイクルについて理解したら、次はいよいよ、白点病“治療”の方法について考察します。
が、具体的な“治療方法”の説明に入る前に、いくつか、確認しておかなければならないことがあります。それは以下の3点です。

1. 「白点が消えた=白点病が治った」ではない
 
まず最初に確認しなければならないのは、何をもって「白点病が治った」とするか。という問題です。
白点虫の生活史」のページで述べたように、白点虫が魚体に付着した「白点」として確認出来るのは、1匹の白点虫あたり6日〜10日間程度の長期に渡る一生の中の、ほんの短い数時間のことに過ぎません。従って、白点病魚の治療に当たっても、まず、「白点が消えた=白点病が治った」ではないということを、我々はきちんと理解する必要があるでしょう。

一度現れた「白点」は、必ず消えます。“治療”も何もしなくても、一度は必ず消えるのです。しかしその
「白点が消えた」のは、白点虫が単に、魚体から水槽底へと移動しただけのことであって、つまりは次なる「白点」大増殖の前触れなのかもしれません。白点病魚の“治療”に当たっては、そのことを忘れてはいけません。

従って、「白点病が治った」という判断を下すには、少なくとも白点虫の生活環の1サイクル以上の期間(具体的には少なくとも1週間〜10日間程度)に渡って、「白点」の発現(再発)がないことを確認する必要があるでしょう。「白点」の消失後、3日や4日では、“治癒”は確認できないのです。当然、いかなる“治療”方法を採用するにしても、少なくとも1〜2週間程度の連続的な対策と、経過観察が必要になります。


   
2. すべての白点虫を一度に駆除する方法はない
 
そしてさらに、白点病魚の“治療”者は、

「飼育水中を遊泳している仔虫」「魚体内に寄生している成虫」「底砂などに付着している卵(シスト)」という、白点虫の3つの成長段階のそれぞれを、一度に駆除する(殺す、または水槽から排除する)ことが出来る“治療”の方法は、現在に至るまで開発されていない。

ということを、強く肝に銘じておく必要があります。

現在までの各種の白点病“治療”の方法は、「仔虫」「成虫」「卵(シスト)」のいずれか1つか、せいぜい2つまでにしか効果を持ちません。この3つの成長段階にある白点虫の全てを一度に殺すことが出来る薬があれば、白点病を一気に治療することも可能なのですが、それが不可能な現在では、この、「仔虫」「親虫」「卵(シスト)」のいずれかひとつの段階を選んで、次の段階に進めなくすること(=白点虫の生活/増殖サイクルの遮断)によって、最終的に、病魚が白点虫に再感染(再寄生)することを防ぐことによって“治療”を進めるしかありません。
(これは
“治療”とは言いながら、その本質は再感染防止策なのですから、私はこのページでは常に「“治療”」という標記をしています。)

だからこそ、白点病には「一粒飲めばピタッと止まる!」というような特効薬がないのですし、“治療”と経過観察には、長い時間が必要となります。
(逆に「一粒飲めばピタリと止まる」式を訴求している白点病治療薬は、極めて“眉唾”だと思って良いと思いますが…笑)


   
3. 「“治療”効果の有無」と「“治療”の成否」は別物
 
そして最後のポイントは、ご紹介する“治療”の方法に効果が認められるからといって、それが即、“治療”の「成功」を意味するものではないということです。時には“治療”に効果があっても、白点病は治らないどころか、ますます症状が重くなり、ついには魚が死んでしまうこともあります。それとは逆に、“治療”自体には実は効果がないのに、白点病自体はどんどん軽症化して、「白点」が全く見えなくなることも、珍しいことではありません。

これは、白点病“治療”の成否は、魚の側の「抵抗力」と、白点虫の側の「寄生力(感染力)」のバランスによって決まることによります。そして白点病の“治療”は、多くの場合、飼育水中の白点仔虫の数を減らすことによって白点虫の「寄生力」を弱めようというものですから、この「抵抗力」と「寄生力」のバランスに影響を与える数多くの要素の中の、たった一つか、せいぜい二つ程度に過ぎません(下図参照)。



【 「抵抗力」と「寄生力」のバランス 】



そのため、例えば一つの“治療”法に効果があって、飼育水中の白点仔虫の数が減っても、別の要因で魚の側の「抵抗力」が減退すれば、白点病は重症化します。また、一つの“治療”法にどんな効果があっても、別の要因の変化が白点虫の「寄生力」を上昇する方向に作用した場合、結果として白点虫の寄生力は弱まらず、当然、病勢には変化がない。もしくは、病状が悪化する。ということもあります。
また逆に、我々が行った“治療”には実は直接の効果がないにも関わらず、別の要因が白点仔虫の数を減らしたり、あるいは魚の抵抗力を増やしたりして、白点病の症状が軽くなることもあるでしょう。

白点虫の「寄生力」が魚体の「抵抗力」を上回れば、白点病の症状はは悪化していく。
魚体の「抵抗力」が白点虫の「寄生力」を上回れば、白点病の症状は快方に向かう。



我々はつい「白点病が治った=“治療”法に効果があった」「白点病が治らなかった=“治療”法には効果がなかった」と考えがちですが、そう考えるのは間違っています。白点病の“治療”方法については、とかく「効果がある/ない」という論争になりがちなのですが、「効果の有無=“治療”の成否」と捉えてしまうと、議論はますます混乱することでしょう。「効果」の有無と白点病“治療”の「成否」は分けて考える必要があります。今後は是非、留意していただきたいところです。

代表的な白点病“治療”方法(対症療法)
  さて、前置きが長くなりましたが(笑)、以下にさっそく、代表的な白点病“治療”方法について、その概略を説明していきましょう。

ただし、繰り返しますが、ここで説明するのはあくまでも“治療”法の概略に過ぎません。具体的な“治療”ノウハウについては、ここに記載する内容では全く不十分ですので、ここに書かれたことをヒントに、是非、“治療”法の詳細が掲載されている文献やWEBサイトをご覧になって、十分に研究されることをお勧めします。

なお、繰り返しますが、ここに記載された内容を正しくご理解いただくためには、前項の「[3]白点虫の生活史」の理解が不可欠です。もし検索サイトなどからこのページに直接、アクセスいただいた場合には、是非、遡って、前項のページもご覧戴くよう、お願いします
また、個々の“治療”法に関する具体的なノウハウについては、私にも分かりません(何せ自分ではやったことがないのですから…爆)。質問をいただいても、適切に回答できない場合が多いと思いますので(^_^;;、その点、ご了解ください。


  1. 硫酸銅治療
    現在最もポピュラーで、かつ効果が認められている方法です。ただし、猛毒の硫酸銅を継続的に使用するため、詳細なノウハウを身に着けてから、治療に当たる必要があります。
 
[治療の概略] 病魚のいる飼育水槽に劇薬である硫酸銅の溶液を注ぎ込み、それによって発生する銅イオンの毒性によって、飼育水中を漂う白点仔虫(および魚体から離脱直後の白点成虫=プロトモント)を殺してしまおうという治療法です。
白点仔虫や白点成虫(プロトモント)を殺すためには、白点仔虫等が飼育水内に遊出する可能性のある期間中ずっと、飼育水中の銅イオン濃度を一定レベル以上にキープしておく必要がありますが、硫酸銅自体、劇薬指定されているほどの毒性の強い物質なので、適正濃度を越えるとたちまち、魚まで死んでしまいます。
(なお、エビ・カニやサンゴ、イソギンチャクなどの無脊椎動物は、ごく微量の硫酸銅によって死滅します。そのため、無脊椎動物のいる水槽には、硫酸銅は使用できません。)
その一方で、銅イオンは飼育水中の様々な物質と結合することによって急速に失なわれて行きますので、飼育水中の銅イオン濃度を一定にキープし続けるためには、ある程度の期間をおいて連続的に硫酸銅溶液の注入を続ける必要もあります。
そのため、効果は確実なのですが、実際の運用には、正しい知識と十分な経験が必要な、難しい治療方法の一つです。
[メリット]
  • 適正な銅イオン濃度をキープすることさえ出来れば、白点仔虫等を、確実に殺すことが出来る。
  • C.irritans による白点病ばかりではなく、初期症状が類似するウージニウム症(アミルウージニウム)の治療にも有効。
[デメリット]
  • 適正な銅イオン濃度を長期間にわたってキープすることが、かなり難しい。
  • 魚種や生体の大きさによって硫酸銅に対する耐性が大きく異なるので、適正な硫酸銅濃度の設定自体を変える必要があり、十分な知識を要する。
  • 無脊椎動物には硫酸銅は、ごく微量でも猛毒。そのため、無脊椎動物がいる水槽には使用できない。
[備考] 硫酸銅治療については、解説してあるWEBサイトが多数、あります。1つ、2つのWEBサイトの情報で満足することなく、出来るだけ多くの、詳細な情報を集め、治療に当たって下さい。硫酸銅は劇薬指定されており、購入には印鑑が必要です。当然、取り扱いにも注意が必要で、硫酸銅の重量の測り方から、濃度の調整方法、飼育水への点滴方法まで、非常に細かなノウハウがあります。「市販されている“薬”を飼育水槽に投入しておしまい!」というような、安易な治療方法ではありませんので、その点を十分に心して、治療に当たって下さい。

また、硫酸銅治療においては、飼育水中の銅イオン濃度を一定以上に保つために、硫酸銅溶液の追加投入をする必要がありますが、その際、「白点」の消長の観察によって、白点親虫の魚体からの離脱や、卵(シスト)から仔虫の遊出タイミングが推定できるようになっていれば、その、仔虫の遊出タイミングに合わせて追加投入することによって、より大きな効果が見込めるものと思われます。そのためにも、白点虫の増殖サイクルに関する理解が必要です([3]白点虫の生活史参照)。

なお、この「硫酸銅」の代わりに、ペットショップなどで一般に市販されている「銅イオン」を使用する場合がありますが、白点仔虫を駆虫する仕組みは同じです。なぜなら、「硫酸銅」は水に溶いて「銅イオン」の状態にすることによって初めて、殺菌力を持つからです。従って、「硫酸銅」を用いた場合にも「銅イオン」を用いた場合にも、治療の難易度や留意点などは、ほぼ同じと考えるべきと思われます。
     
  2. 低比重法
    この数年程度の間に、急速に採用が拡大してきた方法です。硫酸銅治療に比べると効果はやや劣るようですが、他の多くの方法に比べても、確実な効果が期待できる方法のひとつです。
 
[治療の概略] 病魚の飼育水槽の海水の比重を汽水状態にまで落として長期間維持することで、白点虫の成長サイクルの環を断ち切るという考え方です。この“治療法”が「仔虫」「親虫」「卵(シスト)」のどの段階の白点虫に作用するのか、まだはっきりとは確認されていないようですが、通常の海水の50%程度にまで比重を落とした海水に入れると、白点虫の卵(シスト)が浸透圧によって破裂することが確かめられています。また、一度低比重環境においた白点虫の卵(シスト)からは、仔虫の正常な発生が妨げられたという実験結果もありますので、現在のところでは、主に卵(シスト)状態の白点虫を殺す(もしくは仔虫を産出できなくする)ことによって、白点虫の生活・増殖サイクルを断ち切る“治療”方法であると考えられます。

なお、「飼育水の比重を落とす」という点では、いわゆる「淡水浴」と似た部分がありますが、淡水浴の場合には一気に淡水の中につけることによって急速な浸透圧の変化を起こさせるのに対して、白点病の「低比重法」の場合には、より長期間(最低1週間〜1ヶ月以上)に渡って低比重環境をキープし、比重下降にも時間を掛けて行うのが一般的です。従って、「比重を落とす」という点では似ている部分があるものの、「淡水浴」と「低比重法」は全く異なるコンセプトに基づいた“治療”法であり、両者を混同しないことが肝要です。

また、甲殻類やサンゴ、イソギンチャクなどの無脊椎動物も、硫酸銅ほどではないものの、やはり長期間の低比重には耐えられません。そのため、低比重法を採用する場合にも、隔離水槽で行うのが一般的です。

低比重法を採用して白点病の治療を実施したレポートを掲載しているWEBサイトの中では、低比重のみではなく、グリーン・F・ゴールド(顆粒)などの、毒性の低い魚病気薬を併用する方法が紹介されているものがあり、高い効果を示すことが報告されていますが、低比重環境においてそれらの薬剤がどのように作用するのかについては説明されていません。今後、それらの薬剤が治療効果を持つ仕組みの解明が期待されます。
[メリット]
  • 薬剤を使わないため、薬殺の危険がない。
  • 白点病の“治療”のみでなく、新規導入魚のトリートメントにも活用できる可能性がある(理由は「備考」参照)。
[デメリット]
  • 低比重環境においても白点病の蔓延が見られたという報告もあり、硫酸銅治療に比べると、効果はやや不安定。
  • 比重変化に対する飼育魚の馴致に時間を掛ける必要があるため、硫酸銅治療より以上に時間(治療日数)が必要。
  • 硫酸銅同様、魚種ごとに低比重に対する耐性が異なり、魚種によって比重調整する必要がある。
[備考] 硫酸銅治療に比べると我が国での実績は少なく、詳しいノウハウを紹介した文献、WEBサイトなども少ないのが現状です。ただし、非常に詳細な報告があり、極めて参考になるWEBサイトも存在していますので、よく調べた上で採用して下さい。ちょっとやそっとの「生兵法」では、却って大怪我の元と思います。

なお、低比重法に関しては、低比重にすることによって海水魚は却って周囲の飼育水と体内の水分との間の浸透圧調整が楽になり、病魚の体力回復の効果が期待できるのではないか、という説があり、新規導入魚のトリートメントにも有効だと言われています。傾聴に値する見解と思われます。
     
  3. 殺菌灯or殺菌筒(ヨウ素殺菌樹脂)
    あまり積極的/即効的な“治療法”とは言えませんが、魚体への負担が少なく、予防の観点からも知っておくべき方法論です。
 
[治療の概略] 「治療法」としてよりも「予防法」として有名ですが、飼育水を紫外線殺菌灯等の殺菌装置の中に循環させて、白点仔虫を殺してしまおうという考え方です。

ただし、殺菌「灯」でも殺菌「筒」(およびその他の形状のヨウ素殺菌樹脂)でも、殺すことが出来るのは、殺菌装置の内部を通っている飼育水の中にいる白点仔虫だけです。しかも、全てを殺すことは出来ずに、殺菌装置の中を通ってきた白点仔虫の中の何割かは殺されずに、そのまま殺菌装置を通り抜けてしまうと考えられますので、硫酸銅のような薬剤の使用に比べて、“殺菌”の効率は劣ります。

それでも殺菌装置の中を飼育水が循環する毎に、その中にいる白点仔虫の何割かは確実に殺されていきますので、少しずつ、少しずつ、飼育水中の白点仔虫の数は減少します。その点では最初から持久戦覚悟の側面がありますが、時に装置の殺菌能力を超えて白点虫が増殖することもあり、その場合には、殺菌灯・殺菌筒の効果は明確に把握できません。
[メリット]
  • 薬殺や比重変化によるショック死などの心配がない。
  • 無脊椎動物を飼育している水槽でも採用可能。隔離水槽を用意する必要もない。
  • “治療”に使用した器具はそのまま、“予防”のために継続使用が可能。
  • 白点虫のみならず、飼育水内の雑菌まで殺菌する作用があるため、「飼育水の透明度が増す」などの副次的な効果も期待できる。
[デメリット]
  • 器具のメンテナンスやセッティング状態により、“治療”の効果にも違いが現れやすい。細かなノウハウの習得が必要。
  • 即効性に劣る面があり、“治療”にも、長い時間を掛けることが望ましい。
  • 水槽中の複数の魚が白点病に罹患していたり、既に白点病による死魚が出ているような「白点病が蔓延した水槽」では、十分な効果は見込めない場合が多い。
[備考] 既に述べたとおり、「治療法」としてよりも「予防法」と考えた方が良い側面があります。(ただし、“治療”も予防も原理は同じですから、予防効果の高い方法には“治療”の効果も期待できるはずです。)
ただし、“治療”として採用する場合には、白点病の初期段階であり、かつ、可能な限り高い殺菌能力を持つ装置や、高い殺菌能力が発揮できるセッティングを採用する必要があるでしょう。その辺りも含めて、メーカーの取扱説明書に従っているだけでは分からない、細かなノウハウを知らなければ、十分な効果は期待できません。
     
  4. 連続水槽交換(換水)法
    白点病の増殖サイクルを逆手に取った“治療”方法です。白点病の研究者の方も、同様の方法で治療をするそうです。
 
[治療の概略] 白点虫がその成長過程(増殖過程)において、一度は必ず魚体を離れるという特徴を利用した“治療”の方法です。成熟した白点虫が魚体を離れたタイミングを見計らって、病魚を別の水槽に移し、白点虫の生活/増殖サイクルの環を断ち切ってしまいます。(もしくは、飼育水の全交換+水槽の洗浄、という方法を取ることもあります。)
魚体に寄生した白点虫が全て一度に魚体を離れてしまうことはありませんので、通常、水槽交換(換水)も1回で終わることはなく、毎日連続、もしくは一定期間をおいて断続的に、魚体に白点が現れなくなるまで、水槽交換(換水)を繰り返します。
[メリット]
  • 薬剤を使わないため、薬殺の危険はない。
  • 特別の装置も使わず、比較的低コスト。
[デメリット]
  • 毎日の水槽交換や換水自体が病魚にとってのストレス要因となり、病魚の体力を奪う危険性がある。
  • 非常に手間暇がかかり、病魚の扱いなどにも熟練が必要。
  • 進行した白点病の場合には白点虫が魚体を離れるタイミングが揃わず、バラバラであるため、適切な水槽交換のタイミングを判断しにくい。
[備考] 一見、非常に簡単なことのように思えるので、「そんなことで白点病が治るのか?」と感じるかもしれませんが、例えば海上養殖のイケスの中の魚に白点病が発生した時には、イケスごと沖合いの潮通しの良い海域に移動させて、蔓延を防ぐのが一般的な方法だそうです。これなどは、連続水槽交換(換水)と、同じコンセプトに基づいています。
ただし、実際に行うことを考えると、毎日の水槽交換(換水)による魚体へのストレスを最小限に抑えるには高い飼育スキルが必要であり、頭の中で考えるよりずっと、大変な“治療”方法ではないでしょうか(^_^;;。
     
  5. ラクトフェリン等の免疫賦活作用のある物質の経口投与
    脊椎動物の免疫を活性化する効果のあるラクトフェリン等の物質を経口投与することによって、病魚の抵抗力を強化し、白点虫の再感染を防ぐものです。
 
[治療の概略] 母乳(特に初乳に大量に)含まれて、哺乳動物の新生児に免疫力を提供する成分であるラクトフェリンなど、脊椎動物の免疫を活性化する効果のある物質を経口投与することによって白点病を“治療”する方法です。白点虫そのものを殺すことによって“治療”を行うものではありませんので、その点では4.の「連続水槽交換(換水)法」に似ていますが、この方法では白点虫の卵(シスト)を除去することすらせずに、白点仔虫が魚体に再寄生する段階で、魚自体の免疫力(=寄生に対する抵抗力)を高めて再寄生の確率を減らし、白点虫の増殖サイクルの環を、徐々に細いものにしていくことを目指します。
これまでにも何度か触れていますが、魚に体力があり、免疫力の高い状態では、白点病の感染力(寄生力?)は、さほど高いものではありません。そのため、魚の免疫力を高めることによって、白点仔虫の再感染を防ぎ、結果的に白点病を“治療”しようというのは、理論上では十分に検討に値するコンセプトだと言えます。

具体的には飼料に沁み込ませて経口投与できるラクトフェリンの粉末が商品化されていますし、それより簡単には、人工乾燥餌の中に既にラクトフェリンが配合されている商品も販売されています。(まあもっとも、その餌の中にどの程度の量のラクトフェリンが配合されているのか、甚だ疑問ではありますが…(^_^;;)。
[メリット]
  • 特別の薬剤も特別の装置も使わず、日常の給餌にラクトフェリンなどを配合するだけで良い(もしくは、配合済みの餌を使うだけで良い)ため、極めて容易
  • 病魚に対しても、同居の他の生物に対しても、いわゆる「副作用」が一切ない。当然、無脊椎と同居の水槽内でも使用可能であるし、他の“治療法”と組み合わせて実施することも可能。
[デメリット]
  • はっきり言って効果は緩慢。元々の病魚の抵抗力を高めるだけなので、既に重症化している場合には、効果はほとんど期待できない。
  • ラクトフェリンなどの免疫活性化物質そのものが、比較的高価。ラクトフェリン入りの人工乾燥餌も、通常の飼料よりも高価。
  • “治療”に長い時間が掛かりがち。
  • そもそも拒食に陥った魚には効果がない。
[備考] ラクトフェリン等を経口投与したからと言って、ただちに再感染(再寄生)がゼロになるということはありません。むしろ、再寄生する白点仔虫の数を減らす。という程度の効果であると考えるべきでしょう。したがって必然的に、白点虫の寄生数も徐々に減少するのみにとどまり、はっきりとした効果が現れない場合も多いものと思われます。
従ってラクトフェリン等の経口投与は、それ単独で“治療”の効果を期待するよりも、むしろ他の“治療”方法と組み合わせることで、“治療”期間の短縮や、“治療”効果の向上に貢献する、補助的な役割と考えた方が良いのではないでしょうか。
またラクトフェリン等の経口投与によって魚の免疫力を高めるのにも、投与量、間隔、期間などで効果は大きく異なります。ラクトフェリン等の投与によって“治療”の効果を上げるためには、やはり細かなノウハウを研究する必要があるものと思われます。

以上が、代表的な白点病の“治療”方法の概略です。

ところで、これ以外にも現在では様々な魚病薬メーカーや観賞魚ショップが、「無脊椎にも無害」などのセールストークで“白点病治療薬”と称する商品を販売しています。その中には本当に効果を持つ薬も存在するのかもしれないのですが、しかしそのいずれも、内容・成分が明らかにされておらず、またいかなるメカニズムによって白点病を“治療”するのか、説明がなされていない場合がほとんどです。
従って、私としても、それらの商品に対する評価はしかねますし、また現状では、評価する必要もないのではないかと思います。そんな、「どう効くのか/なぜ効くのか」も分からないような“薬”に魚を漬けて、「効果があるだろうか、ないだろうか」などと心配しているよりは、その効果も、限界も(副作用も)分かっている“治療”の方法が5種類もあるのですから、それぞれの飼育者の環境と病魚の状態に合わせて、いずれか一つの方法を採用するなり、あるいはいくつかの手段を組み合わせて“治療”にあたる方が、現状ではよほど理に適っており、また十分に効果的なのではないでしょうか。

もしメーカーやショップが販売している“白点病治療薬”が本当に有効なものであるならば、メーカーやショップはその内容・成分を明らかにし、また白点虫を水槽内から駆除できるメカニズムを公表していただきたいものです。(さらに第三者がその実験結果の妥当性を追試出来る治療実験結果の公表も。)
それをしないままに「白点病に効果がある。」と主張しても、いわゆる“鰯の頭も信心から”の範疇を出ない。という批判を免れ得ないと、私は考えます。

また、上記の5つの“治療法”以外の、様々な“治療”の方法については、弊サイトのBBS(「ひま人の掲示」)に、ベテラン飼育者であるdelphinusさんが投稿された内容をまとめたものを、弊サイト掲示板「過去ログスペシャル」として公開しております。非常に参考になる内容ですので、是非、ご一読下さい。(こちら→「過去ログスペシャル」

実際の白点病“治療”に当たって
 

さて、私はこのページで、5つの白点病の“治療”方法の概略をご紹介していますが、いずれの“治療”方法が優れ、いずれの“治療”方法が劣っているかということは考えません。既に述べたように、白点病の“治療”の効果は、白点病の病勢を左右する沢山の要因の中の一つに過ぎず、それらの要因の組み合わせによっては、効果の程度も大きく変化するだろうと思われるからです。

従って、あるケースには硫酸銅治療が最も有効である場合もあれば、別のケースでは硫酸銅が効果を持たず(あるいはその採用が危険であり)、低比重や水槽交換の方が有効であった。ということもあるでしょう。些か無責任ではありますが(^_^;;、私には個々のケースの判断は出来ませんし、治療方法の採用の結果についても、責任を負うことは出来ません。実際の白点病の治療に当たっては、このページのみならず、是非、より多くの資料(他のWEBサイトを含む)を研究して、ご自分の水槽条件に最も適合した“治療”方法を選択して下さるよう、心よりお願いします。

また、個々の“治療”法に関する具体的なノウハウについては、例えご質問をいただいても、適切に回答できない場合が多いだろうと思われることは、既に述べた通りです。(何せ100%、「耳学問」なんで…(^_^;;)その点、平にお許し下さいm(_*_)m。

ただ、ここで私からひとつご提案するとすれば、それぞれの“治療”法を一つだけ、採用する必要はないものと思われます。各々の“治療”法の効果の違いを研究するのが目的であれば、個々の“治療”法をそれぞれ単独で採用して、他の条件を出来るだけ揃えた上で比較する必要があろうかと思いますが、実際の飼育者にはその必要はないと思うからです。

例えば、水槽交換は他の全ての“治療法”と併用出来ます。(ただしもちろん、個体にストレスを与えないハンドリングスキルが必要なことは言うまでもありませんが。)また、低比重と殺菌灯/殺菌筒も併用できるでしょう。
硫酸銅(銅イオン)治療のように科学薬品を用いる場合には、例えば低比重環境がどのような影響を及ぼすか、また紫外線やヨウ素樹脂に対してどのような反応を起こすのか、予測できない部分がありますので、他の“治療”法との併用に関して慎重になる必要があると思いますが、その他の“治療”法に関しては、白点虫の生活/増殖サイクルの中のどの段階の白点虫に作用するのかや、どのような仕組みで白点虫を殺したり、その成長を阻害するかなどか、それぞれに異なっています。

そのため、ここでご紹介した“治療”法のいくつかは、夫々を単独で採用するよりも、同時に、あるいは時期をずらして、組み合わせて採用することによって“治療”の効果を高めることが出来るものと思われます。例えば下図を参考に、それぞれの飼育者が、ご自分の飼育環境にもっとも適した“治療”の方法を組み合わせて選択し、“治療”の効果を上げていただければ良いのではないかと思います。

白点虫の生活/増殖サイクルと“治療”方法

顕著な効果の認められない“治療”法
 

蛇足ですが、最後に、これまでしばしば採用されながら、白点虫の駆虫効果があまり期待できない、いくつかの“(海水性)白点病治療法”(と称されるもの?(^_^;;)も紹介しておきます。
これらの方法を採用することは、多くの場合、却って病魚の体力を奪い、病勢をまして死期を早めます。全く効果がないことはないのかもしれませんし、既に述べたように、たまたま別の要因が働いて白点病が治ることもあるでしょうけれども、より安全に白点病魚を“治療”したいと願うのであれば、採用はお勧めしません。

1.高水温にする(および低水温にする)

淡水性白点病の治療方法としては有名ですが、海水性白点病には効果がありません。海水性白点病の病原体である C. irritans の活動を抑えるためには、水温を34℃以上にキープする必要があるからです。長時間に渡り、34℃以上の飼育水温をキープすれば、確かに白点虫の増殖も抑えられるかもしれませんが、その前に魚が死にますね(^_^;;。

ちなみに、淡水性白点病( I. multifiliis )の場合には、水温を30℃程度にキープすることによって病原体の増殖を抑制することが出来ます。それくらいの水温ですと魚も耐えることが出来ますので、淡水性白点病の治療方法としては「高水温をキープする」というのは有効です。しかし、海水性白点病( C.irritans )の場合には、31℃で最も成長が盛んであったという研究結果もあります。30℃程度に保つのでは、白点虫の増殖を加速すると同時に魚の体力を弱めるのですから、却って白点病を蔓延させるだけの結果になります。

なお、「低水温をキープする」というのも同様で、海水性白点虫の増殖を押さえるには、16℃程度以下に水温を抑える必要があります。強力な水槽用クーラーが必要ですし、熱帯性の魚は低温に耐えられずに、これまた死にます。意味がありませんね(^_^;;。

2.淡水浴

delphinusさんの「伝説シリーズ」にも説明がありますが、これも有効ではありません。百歩譲って、淡水浴を行ったときにたまたま体表近くに出ていた白点虫を殺すことが出来たとしても、表皮の奥底で寄生虫の白点虫を淡水浴で殺すことはできませんし、病魚だけを取り出して“治療”しても、飼育水槽内に残っている白点仔虫や卵(シスト)を無視したのでは、再感染する(再寄生される)ことは避けられないからです。
むしろ高水温をキープする場合と同様、淡水浴によるストレスによって病魚の体力を奪い、病勢をまして死期を早める結果になるのではないでしょうか。
「低比重治療」が有効だからと言って、「淡水浴」も有効とは言えませんので、よく気をつけましょうね。

3.水槽を常に暗くしておく

これは白点虫の離脱が夜間に多いということから考え出された方法のようですが、「白点虫の生活史」のページで説明したように、白点虫の離脱は光に依存するのではなく、白点虫の体内時計に依存しています。従って、一日中暗くしていても、白点虫の離脱を促す効果はありません。
それよりはやはり、規則正しい明暗のリズムによって、病魚の生活リズムを整え、体力回復を図ることの方が、より重要なのではないでしょうか。

4.グリーンFゴールド(顆粒)やエルバージュなどの殺菌剤の単独使用(薬浴)

硫酸銅以外の薬品が、白点虫を殺す効果が全くないとは言い切れません。むしろ、白点仔虫の殺虫に関しては、実験室の中では、いくばくかの効果が認められる可能性はあると思います。しかし、海水魚飼育にも多用されるグリーンFゴールド(顆粒)やエルバージュの薬浴を単独で用いても、それだけで“治療”として十分な効果があるという事例は、私はまだ聞いたことがありません。
抗菌剤であるGFG(顆粒)の薬浴などは、白点病から派生する感染症(=合併症)を予防する効果が期待できますので、GFG浴も全面的に否定するものではありませんが、少なくとも通常比重で通常時間のGFG薬浴などでは、海水性白点病に関して、著しい“治療”の効果は認められないでしょう。
「白点病が出たのでGFG(顆粒)浴をさせた。」というのは、少なくとも白点病の直接的な“治療”という観点からは、完全な誤りだと言って良いと思います。GFG薬浴を検討する前に、他の“治療”手段を研究しましょう。

ただしGFG(顆粒)薬浴については、海水魚飼育者の過去の経験上から、「白点病“治療”に効果があるのではないか。」ということが、半ば“伝説”のように伝えられています。もし本当に効果があるのであれば、コントロールを用い、追試可能な実験によってその効果が検証されると共に、“治療”の仕組みまでも解明されることが望まれます。
何方かチャレンジしていただけると嬉しいのですが…(^_^;;。

5.クリーナーフィッシュ、クリーナーシュリンプの使用

これもdelphinusさんの「伝説シリーズ」に説明がありますが、やはり白点病治療に有効な手段ではありません。
理由は説明するまでもありませんね。いくら魚体上の「白点」を取り除いても、白点病を“治療”することは出来ないからです。

なお、「白点」が現れている魚の体表粘膜をガーゼなどで拭って、魚体上の「白点」を無理やり除去してしまうようなことをする方もいらっしゃるようですが、これにも効果がないのは言うまでもありません。それどころか、魚体表面を保護していた粘膜が奪い去られることによって、より一層、白点虫に感染されやすくなってしまうものと思われますので、白点病の場合には、絶対にやめて下さい。(リムフォシスティスの場合には効果があることがありますが。)

以上が駆虫効果があまり〜ほとんど(笑)期待できない“治療方法”です。しかし、「白点病“治療”のポイント」の項目でも述べたように、魚側の「抵抗力」が白点虫側の「感染力」を上回れば、そこに人間が“治療”を施しても施さなくても、やがて白点の数が減り、自然治癒することも多いのが白点病の特徴です。そのため、ここでご紹介した「効果のない“治療”法」を施した場合でも、魚から「白点」が消え、白点病から回復してしまうことがあります。そのことがまた、白点病“治療”の有効性評価を混乱させている原因だと思うのですが、その点を混同しないように、気を付けたいものです。

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