* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

放蕩見聞録・水族館篇 [11]
千歳 サケのふるさと館

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

基本情報 (2006.05記入)
 
  所在地 〒066-0028 北海道千歳市花園2丁目312番地 道の駅「サーモンパーク千歳」(インディアン水車公園)内
  アクセス
  • JR千歳駅から徒歩0.9km
  • 高速道路千歳インターから5km 国道337号線沿い・道の駅「サーモンパーク千歳」内
  電話番号 0123-42-3001
  営業時間 9:00〜17:00
※最終入館は閉園の30分前で終了
  定休日 2006年度休館日は、2006/12/26(火)〜2007/01/08(月)のみ
  入場料金 800円(大人)/500円(高校大学生)/300円(小中学生)/幼児無料/65才以上400円
※年度内有効の会員券あり(高校生以上:1,000円/小中学生:500円)
※シルバー、障害者の優待あり。
  公式サイト http://www.city.chitose.hokkaido.jp/tourist/salmon/index.html
   
独断と偏見による概要
 
  • 北海道の空の玄関、新千歳空港からJRに乗ると隣の駅、千歳駅から徒歩で見学可能。北海道観光の前後に気軽に立ち寄れる、ちょっと変わった水族館です。
    (もっとも私が訪れた3月の初旬の時期、駅から徒歩で訪れる“もの好き”は、私以外にはいない様子でしたけどね(^_^;;)
  • 隣接する道の駅「サーモンパーク千歳」と一体化した存在となっており、イメージキャラクターの「サモン君」も共通。
    もともと7月から12月に掛けてのサケ遡上期間、隣接する千歳川に設置されて観光客を集めていた「捕魚車(インディアン水車)」が中心となって、社会教育の場&観光レクリェーションの場として「人と川とサケのふれあい」をテーマに建設された、「千歳市サーモンパーク(インディアン水車公園)」の中核施設の一つです。
    オープンは1994年。ちなみに、道の駅「サーモンパーク千歳」の駐車料金は無料です(笑)。
  • 「サケのふるさと館」には、千歳川の川の中を除くことが出来る「千歳川水中観察室」のようなユニークな設備がありますが、中心になっているのは何といってもサケを捕獲するための「捕魚車」(通称「インティアン水車」)であり、春にはサケの稚魚の放流体験(無料)も行われているなど、他の多くの水族館が自然の生き物そのものに対する理解を深めることに力が入れられているのに比べ、「生き物」を見せるより、むしろその「生き物」に働きかける人間の営み=「漁業(水産業)」の有様を見せることに力が入れられていることに特徴があります。
    “サケ増養殖事業資料展示館”に、水族館機能が付属している。という感じでしょうか(笑)。
  • 人工繁殖魚の自然放流に関しては、それが却って新たな自然環境破壊を惹起する懸念があり、その是非を含めて難しい問題がありますが(^_^;;、古くから水産資源としての利活用が行われていたサケの場合には、既に江戸時代中期から、サケ遡上期間の禁猟や捕獲制限、産卵床の整備などを含む「種川制度(たねがわせいど)」などによって、その増殖が図られて来た歴史があるそうです。
    現在、北海道で行われているサケ・マスの増養殖事業のあり方が、水産資源としてのサケ・マスの漁獲量の確保と、北海道の自然環境の保全とのバランスの両面を考えた上での“最適解”であるのかどうかは、私のような素人には判断できないことですが、そうした点も含め、人と魚との関わりを考える上で、是非一度、見学してみたい施設だと思います。
   
写真で紹介(2006.03訪問)
 
「サケのふるさと館」の外観です。
夏から秋に掛けて「サケのふるさと館」の裏側の千歳川に設置される捕魚車(通称「インディアン」水車)は、この時期には「サケのふるさと館」入り口脇に展示してあります。
こちらがその「インディアン水車」。
のちに北海道庁初代水産課長となった、伊藤一隆という人が、1886年に米国西部のコロンビア川で見つけたものを日本に紹介したのが始まりなのだそうですが、1970年代頃から「インディアン水車」という呼び名が一般化したとか。
しかし、実はコロンビア川でサケ漁に従事していたのは、北欧から移住者とその子孫だったそうで、アメリカの先住民族がこのような水車を使ってサケを捕獲していたわけではないそうな。どこが「インディアンやねん!」という話ではありますな(笑)。
こちらは館内最大の“呼び物”である「巨大水槽」。
淡水水槽としては日本最大級の水槽なのだそうですが、最近の巨大水族館を見慣れた目から見ると、水槽の大きさ自体は、さほどインパクトのあるものではありません。奥行きが無いことが却って狭く見せているのかな?

ただ(水槽の中には、サケの仲間や“幻の巨大魚”と呼ばれるイトウ、シロチョウザメなどが泳いでいるのですが)確かに、このサイズの水槽でこうした北方系の淡水魚が泳いでいるのを見るのは珍しいですね。

館内の大きな水槽は他に二つ。いずれも人工孵化させたサケの稚魚や未成魚が泳いでいます。
向かって右側が孵化後数ヶ月の稚魚、真ん中が未成魚、左側の「巨大水槽」内に成魚、と、見学の順路に従って水槽が並んでいます。

稚魚水槽はこんな感じ。すごい数です(^_^;;。
これで孵化後数ヶ月程度。全長で5〜6cmという感じでしょうか。キビナゴとか、そういう感じでしたけどね(^_^;;。
こんな展示もありました。
実物大のサケの模型を持ち上げて、重さを実感できる展示。もちろんオスの模型も置いてあります。
卵の数を答えさせるクイズもありました。
こちらは「巨大水槽」のコーナーの奥の冷水性淡水魚水槽のコーナー。オショロコマなど、北海道の冷たい水に住む魚たちが展示されています。
海水魚中心の私には今ひとつなじみの無い魚ばかりだったのですが(^_^;;、淡水魚に詳しい人にはたまらないコーナーでしょう。

その冷水性淡水魚のコーナーにいたイトヨとイバラトミヨ。いずれも巣作りする魚として有名ですね。
大きくて銀色のほうがイトヨで、小さくて褐色なのがイバラトミヨだそうです。
(実は名前が分からなくなってしまって電話を掛けて問い合わせたところ、大変親切に答えていただきました。ありがとうございましたm(_*_)m。)
こちらは「おもしろ水槽」のコーナー。
“魚たちが音楽に合わせてダンスを踊る”というのですが、実は音楽に合わせてトンネル上の水槽内部の水流が右から左、左から右へと左右に水流の向きが変わる仕掛け。
それで本当に“音楽に合わせている”と言うのかねぇ…?
こちらは餌まきロボットの「しま君」。ボタンを押すと下の水槽の魚にえさを与えてくれるのですが…。

正直、これ、面白い?(苦笑)
「おもしろ水槽」のコーナーの次には「支笏湖の魚たち」そして「千歳川渓流水槽」が続きます。

こちらはその「千歳川渓流水槽」。地下に向かうスロープに沿って上流→中流→下流→河口と分けられた水槽が並び、それぞれの流域に住む魚たちが収容された水槽です。
それぞれの水槽の上には流域に生息する鳥の剥製なども飾ってあって、一応ある種のジオラマ風の展示が試みられています。特別に珍しいとか、工夫されているというわけでもないのですが、こういう水槽は結構好きです。良いんじゃないかな。
その「千歳川渓流水槽」を覗き込むための箱メガネ。「ご自由にお使い下さい。」。
これも特に珍しくも何ともないのですが、なんとなく好きです(笑)。表側の「巨大水槽」よりもずっと好き。なぜでしょう?水族館の職員の方たちの“ぬくもり”みたいなものを感じるからかな?(笑)
でも私が見てもっとずっと面白かったのは、その「千歳川渓流水槽」の向かい側の壁面。水槽に沿ってずっと、千歳川の治水の歴史や河川改修や、水資源の産業利用などに関する説明パネルが展示してあるのです。

今、東京や大阪などの大都市圏では、自然環境の保全や保護の必要性が盛んに唱えられていると思うのですが、ここでは自然環境に対する人為的な改変が、極めて肯定的に捉えられています。それは一方ではこの地の自然環境の厳しさを示すと同時に、また一方では、そのように積極的に改変を加えてもなお、まだ豊かな自然が残されていることをも示しているのでしょう。
正直、“よそ者”の私には違和感のある展示でしたが、自然環境に対する人間の働きかけに関して、改めて色々なことを考えさせられました。
「千歳川渓流水槽」のスロープを下りきると左側に「サケものしりプラザ」のコーナー。さけの増養殖事業や捕獲の歴史、あるいは、サケと人間との関わりから生まれた文化などに関する資料が展示、あるいはパネルなどで説明されています。
「サケものしりプラザ」のコーナー内はこんな感じ。
パネル展示の他、ビデオでの説明ブースなどもあります。
初期のインディアン水車(捕魚車)の模型がありました。
千歳川でこのような捕魚車が初めて使われたのが1896年ということですから、日本でも既に100年以上の歴史を持つことになります。サケの人工増殖事業はそれより早く、1888年に始まっているというのですから、どちらも長い歴史があるんですね。

もっとも、サケと人間との関わりの歴史はさらに古く、江戸時代中期には既に、今の新潟県で、サケの資源保護のために産卵期の漁獲を制限し、人工的な産卵用河川を整備したりする、「種川制度」が始まっていたのだという説明もありました。
産業振興と自然保護、天然資源の持続的利用という観点からも、改めて先人の知恵を見直す必要がありますね。
当然、先住民族であるアイヌ民族とサケに関わる昔話なども紹介されています。

いわゆる「水族館」の展示と言うと、普通は、生物学の観点からの説明・解説が多いと思うのですが、水の生き物と我々、人間の暮らしとの関わりについて理解を深めるためには、これからはこうした、歴史的&文化的側面にも目を向けるべきではないでしょうか。「サケのふるさと館」の場合には、「人と川とサケのふれあい」というテーマから考えても、こうした展示は欠かせなかったわけですが、他の水族館にも、もっともっと、こうした説明・解説パネルが増えると良いと思います。
これはその昔、アイヌの人々が使っていたという、サケ皮で作られた靴、ケリ。靴底に背ビレの部分が使われており、滑り止めの役割を果たすとか。昔の人はこのように、余すところなく、サケを利用していたんですね。
「サケのふるさと館」では今も、イベントの際などに、この「ケリ作り」を実演することがあるそうです。

一方、これと全く正反対で対照的なのが、鯨油だけを絞って他の部分は全て海洋投棄していたという欧米の“近代捕鯨”や、価格の高いヒレの部分だけを切り取って魚体そのものはやはり投棄してしまうと噂されている、現代日本のサメ漁。文明の発達が即ち、文化の荒廃を招いている気がします。
さて、こちらは「サケのふるさと館」のもうひとつの“呼びもの”、「千歳川水中観察室」です。
2×1mのガラス窓から直接、千歳川の水面下が覗けるというもので、自然の川の中を観察できる施設と言うのは世界初だったとか。

サケの遡上の時期などには観察窓の外側に沢山のサケが泳いでいるのを見られるそうですが、私が言った日には何も見えませんでした(^_^;;。(水温が4.3℃しかなかったしなあ…。)もし次の機会があれば是非、川に魚があふれている光景を見てみたいものだと思います。
ちょっと面白い展示がありました。

「水中観察室」の窓はそれぞれ1週間から2週間おきに、川の中に人間が潜ってお掃除をしているのだそうですが、7つの窓のうちの1枚だけは掃除せずに放置して、わざとコケ(藻類)などを生やしているのだそうです。

そしてこれがその1枚、「掃除しない窓」。窓についた藻類の解説パネルが設置されています。ま、それを読んでいる人は私以外にはいませんでしたけどね(^_^;;。

でも良いんじゃないかな。こういう展示も。

そしてこれもたいへん意味のある展示だと思います。「千歳川のゴミ」の展示。「人と川とサケのふれあい」というテーマを考えた時に、やはりこれも避けては通れない展示だったと言えるでしょう。ビールの空き缶や清涼飲料水のペットボトルなど、沢山の生活ゴミを見て、見学者は何を考えるべきでしょうか。

こういう展示も、この「サケのふるさと館」が、千歳川という地元の川に密着した施設となっているからこそ、一層意味深い展示になっているのだと思います。遠い外国の珍しい魚や海獣を見せてくれる巨大水族館も良いですが、この「サケのふるさと館」のように、地元の水環境にこだわったメッセージの発信ということもまた、大変貴重で、有意義な展示の方向性のひとつですよね。
多くの水族館で是非、参考にしていただきたいことです。
さて、この日は3月の上旬だったのですが、ちょうど3月の1日から、「サケの稚魚の放流体験」が行われていました。参加無料。
2006年の場合には3月1日から5月末日まで、ほぼ毎日1日2回、サケの稚魚の放流を体験することが出来ます。
(参考→こちら

んで、こちらがその、放流用の稚魚。昨年(2005年)9月の初めに採卵されたものが11月の初めに孵化し、そこから4ヶ月で放流となるそうです。コップの中に1匹ずつ、入れられています。

放流前に飼育員の方から一通り、サケの生活史についての説明があります。
ここで放流された稚魚は数日から数ヶ月後までには海に下り、そこで成長した後、多くは2009年の秋に再び、産卵のために千歳川に遡上してくるのだとか。
ただし、川まで戻って遡上する魚は100匹のうち1匹以下で、千歳川では毎年ほぼ3,000万匹の稚魚が放流され、少ない年で15万匹程度、多い年で30万匹程度が遡上しているそうです。(近海まで戻って来て捕獲される魚まで含めると、親魚になる確率は3〜4%程度。)

なお、黄色のブルゾンを着ているのはボランティアスタッフの方で、館内の説明などをして下さいます。大変親切に対応して下さって、感じが良いですよ(^_^;;。

放流は「サケのふるさと館」裏手の人工の水路(「せせらぎの水路」)で行います。
こちらがその、人工水路での放流の様子。

私の他には親子連れのグループと、外国人観光客の方のグループが、この日の放流に参加しました。

私は…。
もちろん独りですよ。
(ボランティアスタッフの方に、「魚がお好きなんですか?」とか、訊かれちゃいました(^_^;;。)
放流参加者には、記念のカードが配られます。

人工繁殖魚の安易な自然放流反対のアピールを掲げている私としては(^_^;;、過放流による環境への悪影響も気になりますので、軽く質問してみたところ、「稚魚はすぐに海に下ってしまうので、千歳川への直接の影響はないだろう。」という趣旨の回答でした。
それでも北海道全体で年間11億尾を超えるサケ・マスの稚魚が放流されているそうですから、河川や海への影響がないはずはないと思いますが、一方、もし人工増養殖が行われなかったら、サケ・マスの数はたちまち激減し、それはそれでまた環境に大きな影響を与えることになるのでしょう。何が“正解”か分からない、難しい問題ですね(´・ω・`)。
(もちろん毎年の放流数と捕獲数は厳密に計測され、サケ・マスの資源量が持続的に安定するよう、注意して管理されているわけですが…。)

さて、こちらは、「サケのふるさと館」裏手の「せせらぎの水路」と、その中に立つ、「サケの自然産卵観察室」。
放流されたサケの稚魚はこの水路を通って、千歳川本流に泳ぎ出していきます。
(ただしまあ、この水路内で死んでしまうものもいるそうですが…(^_^;;)

「自然産卵観察室」の内側の観察窓。
「観察室」は人工の水路の浅瀬の上に張り出すように作られていて、その“出窓”のような部分から下の水路を覗きこめるようになっています。産卵の時期にはこの窓から、サケが産卵する様子を観察できるという仕掛けなのでしょう。

ま、私が行った時にはまだ雪が30cm以上も積もっており、「観察室」にたどり着くまででも一苦労で、他に誰も近づく人すらいませんでしたけどね(^_^;;。
千歳川の本流。
夏から秋にかけてはこの場所に捕魚車(インディアン水車)が設置されて、観光客なども大勢訪れるそうです。
一度見てみたいものですね。

対岸から、「サケのふるさと館」を望みます。「ふるさと館」の手前側、川の流れに接して四角く白く見えている部分が「水中観察窓」の上部です。

千歳川は上流のダムによって水位や流量が一定に保たれているため、このような施設が設置しやすいのだそうです。「インディアン水車」が動力を使わず、自然の水が流れる力だけで上手に回転するのも、こうした条件が整っている千歳川ならではのこととか。
原生自然そのものの河川とは既に全く異なった、ある意味人工的な環境の河川なのですが、その中にもまた、川と人、そして魚との間に、新しい、濃密な関係が形成されています。自然と人間との関係のあり方について、色々と考えさせられることの多い水族館です。
   

〜 おまけ 〜

  私が訪問したのは3月の初めでしたが、「新春企画展」が継続して公開されていました。「サンゴ礁の仲間たち」(2006年3月31日まで)
1Fから2Fへのスロープに水槽が並べられているのですが、うーん…(^_^;;。
はっきり言って内容的には特に見るべきほどのものはない展示でしたが、北海道在住の方が見たらどうなんでしょう?やはり普段身近にはいない、鮮やかな色彩の熱帯性海水魚を見るだけでも楽しいのでしょうか。
実は私にとってもっと面白かったはこちら。「金魚展」。

「水族館」で金魚が展示されることは珍しいとは思うのですが、「人間と魚とのかかわり」を考えていけば、当然、人間と最も深いかかわりを持つ魚としての「金魚」に焦点を当てる考え方も「あり」なのではないでしょうか。
  様々な品種の金魚が泳いでいる水槽が展示されているだけではなく、金魚の飼い方や病気の治療法などのパネルのほか、「金魚とまつり」というような、文化的側面のパネル展示もありました。ある意味、「人と川とサケのふれあい」というテーマを掲げる「サケのふるさと館」らしい展示だと思います。
   
まとめてひとこと
 
  • 千歳川とサケの増養殖事業の資料館。
  • 地元の自然と産業に拘ったコレクション・プランニングや、来館者に向けて発信されるメッセージの内容は意義深いものが多い。
  • でも一般の「水族館」としての娯楽性の部分は、ちょっと弱いかも…(^_^;;。
  • それでも、ボランティアスタッフの皆さんも感じが良いし、こういう水族館(?)がますます増えて、日本中に出来ると良いと思います。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「放蕩見聞録」トップに戻る
「放蕩息子の半可通信」トップに戻る

◇ ご意見・ご質問・ご批判等は掲示板、またはこちらまで ◇