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(公開:2005.11.14/追記:2007.06.19・2012.07.25)
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2003年末日本公開のディズニー映画『ファインディング・ニモ』のヒット以来、 世界中の海でクマノミやイソギンチャクが乱獲され、 社会的な関心を呼ぶ事態となりましたが、 最近になって、乱獲によって減少した(とされている)カクれクマノミを人工繁殖させ、 自然の海に放流する事業が、しばしば、 マスコミを通じて紹介されるようになりました。 2005年09月に岡山県の岡山理科大学専門学校が行った放流は 共同通信を通じて日本中のマスコミに配信されましたし、 それに先立つ2004年の11月、および2005年の6月、10月にも、 東京都在住の個人愛好家が繁殖させたカクレクマノミを石垣島の海に繰り返し放流していることを、 フジテレビの『FNNスピーク』が取り上げ、度々放送しています。 しかしちょっと待って下さい。 その放流は何のために行われたのでしょうか? その放流は本当に、 石垣島の自然環境や、海の中の生態系の保全・回復に役に立つことなのでしょうか? 放流をすれば減った(と言われている)カクレクマノミは増えるのでしょうか? そしてその石垣島の海で、人口繁殖されたカクレクマノミだけが増えることは、 本当に石垣島の海の生態系のバランスを回復することになるのでしょうか? * * * 人工繁殖(蓄養)生体の自然放流に関しては、 日本魚類学会、および日本サンゴ礁学会がそれぞれ、 「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」や 「造礁サンゴの移植ガイドライン」を発表して、 安易な放流を戒めています。 内容はそれぞれに異なりますが、いずれも、 人工繁殖(蓄養)生体の自然放流は、 現在の自然の生態系に重大な悪影響を与える危険性が大きく、 自然復元のためのプログラムの中でも、いわば“最後の手段”として、 他の方法によっては個体数の復元が難しい場合にのみ採用すべきものである として位置づけられていることは共通しています。 安易な自然放流は、むしろ、生態系に対して取り返しのつかないダメージを与え、 自然を破壊する行為に他ならないのです。 弊サイトをご覧いただければお分かりになると思いますが、 フジテレビ『FNNスピーク』などでの報道とは異なり、 カクレクマノミの人工繁殖を個人の趣味として行うことは、 決して珍しいことではなく、また難しいことでもありません。 その気なれば誰にでも可能なことであり、 また経済的な負担も、一般的な生物飼育となんら変わるところがない、 いわば“普通の趣味”です。 (私自身、小学生の子供の「夏休みの自由研究」として最適なテーマだと考えているくらいです。) それだけに、クマノミ繁殖を行っている個人それぞれが 「放流ガイドライン」や「移植ガイドライン」を無視して、 勝手に、無秩序に、 繁殖させたクマノミを自然放流するようなことになれば、 わが国のサンゴ礁域の生態系は、 回復不可能な、重大なダメージを受けることになるでしょう。 それによって満たされるのは放流者の自己満足だけであり、 それは結局、映画に便乗したクマノミ乱獲と全く同じ、 自然環境を犠牲にして人間のエゴを満たす行いに過ぎません。 私は私自身、カクレクマノミの繁殖に取り組み、 また、飼育ノウハウ・繁殖ノウハウを掲載したWEBサイトを公開している者として、 このような事態の進展を黙って見過ごすわけには行きません。 私は自己満足に過ぎない安易な自然放流に反対すると共に、 そうした行為をある種の“美談”として取り上げ、 一般生活者に対して間違った認識を植え付ける報道に対しても、 抗議の声を上げたいと思います。 * * * 人工繁殖(蓄養)生体の自然放流は、 代替手段のない場合にのみ限定的に採用されるべきものであって、 科学的な妥当性の検証も行われないまま、安易に行われる自然放流は、 その目的の如何に関わらず、 自然環境に対する重大な破壊行為です。 そこから得られるものは放流者の自己満足のみであり、 自然環境の保全・回復に逆行する犯罪的行為と言わざるを得ません。 改めて、 弊サイト「放蕩息子の半可通信」は、 それが例え善意に基づいたものであったとしても、 人工繁殖生体の安易な自然放流に 断固反対します。 浅薄なマスコミ報道に煽動されることなく、 自然環境の保全・回復に関する正しい知識を身につけ、 誤った善意による環境破壊を排除しましょう。 2005.11.14 「放蕩息子の半可通信」
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■ | 参考ページ | ||||||||||||||||||||
弊サイトでは、2005年9月の岡山理科大学専門学校のクマノミ放流、および、2004年〜2005年に掛けて繰り返された東京都在住の個人愛好家個人によるクマノミ放流のそれぞれについて、考察したページを公開しています。 このページと合わせて是非ご覧いただき、人工繁殖魚の放流の是非について、共にお考えください。
また、国際サンゴ礁イニシアティブにより、2008年が「国際サンゴ礁年」に指定されたことを受けて、弊サイト内に「『国際サンゴ礁年2008』に向けての提言」を掲載しました。併せてご覧下さい。(2007.06.19追記)
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■ | 参考WEBサイト | ||||||||||||||||||||
安易な放流が環境保全・回復にはつながらず、却って生態系や自然環境の破壊であると言うのは、環境保護に関心を持つ人間であれば既に“常識”の範疇に入る認識なのですが、なぜか環境保護に関心の薄い社会一般には広がらず、依然、“自然保護”の美名の下、間違った環境破壊活動(=放流)が続けられています。こうした風潮に対して、安易な放流を厳しく戒める内容のメッセージが、既に数多くのWEBサイトから発信されています。 以下にご紹介するのはそれらのサイトのほんの一部ですが、弊サイトの主張に疑問を感じたり、この主張を不当とお感じになる方は是非、下記サイトなどをご覧いただいた上で、この問題についてお考え下さい。 活発な議論を歓迎します。
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■ | 新たな放流問題の発生 (2012/07/25追記) | ||||||||||||||
当ページの公開後、月日がたちまして、しばらくは放流関連のニュースから遠ざかっていたのですが、そんな私の元に、突然、ここで取り上げているのとは少し異なる生物の放流に関する話題が飛び込んできました。 2012/03/11に発生した東日本大震災からの復興プロジェクトの一環として、いわき市の湯本商店会の皆さんが「ふくしまの復興・ホタルプロジェクト」という名のホタル放流イベントを企画し、その内容に警鐘を鳴らした「アクアマリンふくしま」の職員の方が、「ホタルプロジェクト」側から一方的な、恫喝にも似た抗議を受けたというのです。 詳しくは抗議を受けたご本人が公開しているこちらのブログ記事をご覧ください(↓)。
2012/07/31をもってこの記事も閲覧できなくする予定とのことですので、“魚拓”もとっておきました(↓)。 自らの過ちを認めることは難しい(ましてや、こんなにも沢山の地元の有力者の方の名前を集めた上では(^_^;;)ものですけれども、「プロジェクト」の皆さんには今一度冷静になっていただいて、「復興日記」の筆者の方の主張を封殺せんとするかのような行いは、歴史の検証には耐えられないものであることに思いを至らせていただきたいものだと思います。今の時点では皆さんの面子を保つことはできても、結局、50年後、100年後の子孫から指を差されて笑われることになるのは、「プロジェクト」の皆さんの側でしょう。そうなる前に、出来るだけ早く“引き返す”ことをご決断いただきたいものです。 この問題に関しては、Twitterでの情報拡散が行われ、沢山の方がいわゆる「まとめサイト」を作られました。以下に「これは参考になるな」と感じたまとめサイトのURLを記載しますので、こちらも合わせてご覧下さい(↓)。 また、こちらのページより一足早く、弊サイト別館の 「サンゴ礁年漂流記」でも、取り上げさせていただいています。 なお、安易なホタル放流の問題に関しては、以下のサイトに詳しく解説されています。こちらもぜひ、一度ご覧いただくことをお勧めします(↓)。 「ホタルが減った」⇒「放流だ」という発想が、いかに貧困で、間違ったものであるかがご理解いただけると思います。いわきの「ホタルプロジェクト」の技術顧問とされている「阿部宣男」という方も、生態学や生物多様性保全の知識さえお持ちなら、この辺のことは良く知っているはずなのですが、ホタルの繁殖には詳しくても、生態学や生物多様性保全については素人以下と言うことなのでしょうか。困ったことですね。 (とは言え、世の中には素人の私にさえ「明らかにおかしい」と思うことを、堂々と主張して恥じない“困った似非専門家”の方も沢山いますから、もしかしたらこの阿部さんと言う方も、そういう方なのかもしれませんが…。) |
■ | 『ファインディング・ニモ 3D』の公開と『Finding Nemo 2』の製作について (2012/07/25追記) | ||
また、2012/07/18に、弊サイトのBBS「ひま人の掲示」に投稿をいただきまして(投稿No.[15478])、当ページで問題にしてきました映画『ファインディング・ニモ』の3D版である『ファインディング・ニモ
3D』の公開(2012/09/15日本公開予定)と、この続編である『Finding Nemo 2』の製作が決定したことを知りました(日本公開は未定)。
当ページの製作・公開時と現在(201/07)の時点では、カクレクマノミの人工養殖技術の普及などの条件がずいぶん変わりましたので、今回の公開後にも再び、ただちに、2003年末の『ファインディング・ニモ』の公開後と同じ状況になるとは考えていませんが、それでもやはり監視は必要だと思いますし、いかにブリードものだとしても、魚が無生命のモノのように扱われて無益に殺されていくような事態が増えれば、それを看過するわけには行きません。 まだ準備が出来ていませんが、できるだけ早く準備して、2003年〜2004年のようなことが起きるのを少しでも防げるように、努力していきたいと考えております。引き続き皆様のご理解とご注目をお願いします。 [この問題に関連する弊サイト内の参考ページ] 。 |